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介護事業所における経営改善

2021/11/30 16:29

齋藤 直路
株式会社スターパートナーズ代表取締役/一般社団法人介護経営フォーラム代表理事/脳梗塞リハビリステーション代表/MPH(公衆衛生学修士)

●介護事業所の経営状況

新型コロナウィルス感染症に係る緊急事態宣言が10月1日に解除されてから、そろそろ2ヶ月が経とうとしてきています。報道からは飲食業、サービス業、環境産業等については徐々に活気を取り戻しつつある状況が伝えられています。一方で、コンサルティングでご状況をお伺いする全国の介護事業者様からは、引き続き厳しい経営状況が続いているというお声をお伺いしています。

「令和2年度介護事業経営実態調査結果」においても、訪問入浴や訪問看護等、一部のサービスを除いて対前年比でマイナスの傾向となっており、この傾向は更に前の「令和元年度介護事業経営概況調査結果」から引き続いています[ⅰ]。この様に介護事業は現在、全体的に経営状況が厳しくなる傾向にあります。

介護事業の経営を圧迫する要因としては、マクロの視点からは下記の3点が挙げられます。

【1.新型コロナウィルス感染症】
1つ目は、先述の新型コロナウィルス感染症の影響がまだ残っていることです。新型コロナウィルス感染症のり患リスクが高い高齢者は、引き続き積極的な外出を控えている場合もあり、特に在宅サービスについては、上記の「令和2年度介護事業経営実態調査結果」の調査対象機関である2020年5月現在の状況からも、影響を及ぼしている様子が伺えます。

【2.介護報酬改定】
2つ目は、介護報酬改定の影響です。今年度の介護報酬改定については、基本報酬は若干の引き上げとなりました。しかし、施設系サービスにおける口腔衛生管理体制加算や栄養マネジメント加算の廃止、通所介護の個別機能訓練加算の統一や入浴介助加算Ⅱの創出等による実質的な加算の切り下げがありました。また、科学的介護推進体制加算の創設による現場への負荷も間接的なコストとして経営を圧迫する要因となります。

【3.人件費】
3つ目は、人件費や関係する経費の高騰です。近年の介護業界における人材難はご承知の通りで、採用にもコストが増大しています。また、岸田総理の掲げる「新しい資本主義の実現」に伴う介護士等の賃上げについて、処遇改善加算の引き上げによって相対的な事業所の収益は圧迫されることも想定されます。今後も、この傾向は続くことが考えられます。

「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」[ⅱ]

こういった状況下ではより効率の良い経営状態を目指すことが重要です。そのためには、法改正の流れに沿った体制の構築や加算の算定、より少人数で業務を遂行できる仕組みの導入、人材不足にともなう人件費やその周辺のコスト(人材紹介費、人材派遣費等)の削減などが必要となります。今回は、これらを改善し、より効率の良い事業所経営を実現するためのヒントとなるような情報をお届けできればと思います。

●「収益」を最大化する

事業所の経営を改善するためには当然のことながら「収益」をより多くし「費用」を少なくすることが重要です。「収益」は「単価」と「利用者数(稼働率)」の組み合わせと考える場合があります。更に「単価」は、介護保険事業の場合、「基本報酬」「要介護度」「取得加算」等によって構成され「利用者数(稼働率)」も「登録者数」「利用回数」「キャンセル率」「入院件数」等によって左右されます。これらをKPI(重要業績評価指標)として管理し、目標を定めて更なる改善に努めることが必要となります。

「単価」を構成する「基本報酬」は介護サービスごとに定められているので、経営努力では改善が難しいです。しかし「要介護度」や「取得加算」は介入が可能です。

「要介護度」については、介護度の高い方を受け入れるための教育や機器・設備(重度化後の入浴が可能か)や看護・医療サービスとの連携、職員の加配等、コストをかけることで受け入れ体制を整える形になります。施設サービス、在宅サービスともに今後も重度化への対応が求められますので、中長期的にはこれらに備えていくことが重要になります。

「取得加算」については、国が示した介護サービスの方向性が示されています。今回の「科学的介護推進体制加算」はその最たるものですが、基本的に示されている加算は全ての取得を目指す必要があります。先述の口腔衛生管理体制加算や栄養マネジメント加算の廃止と、未実施減算の創設による、実質的な切り下げの危険性があるからです。基本報酬そのものが大きく引き上げられることが望めない状況については、加算を取得することのみで「単価」の維持や引き上げを図ることが期待できます。

「加算」の算定には当然コストがかかります。場合によってはコスト(人件費)を検討して割に合わないという考えから加算の取得を見送られるケースが多く聞かれます。しかし、例えば口腔関係の加算は誤嚥性肺炎のリスクを抑え入院率を引き下げることが期待できる(下図)、栄養関係の加算は競合事業所が少ないため他施設と差別化しやすい等、副次的な成果により結果として「収益」の改善につながることも期待できます。

「口腔・栄養関係について」[ⅲ]

従来の営業活動に加えて、総合的な体制を見直し、来るべき時代に最適化する経営を目指すことで「収益」の最大化を図ることが必要となります。

●「費用」を効率化する

「収益」の最大化は、いわばお金の「入り」を増やすことです。それと同等に重要となるのが、お金の「出」である「費用」を抑えることになります。

経費の削減というと、人件費のカットや消耗品の節約等が真っ先に思い浮かぶ方も多いと思います。しかし、現状としては介護業界は大変な人材難の状況にあり、人件費をカットしていくという考え方そのものがそぐわない状況です。また、消耗品の節約も重要なことですが、事業規模全体から見ることになると、その影響はどうしても限定的なものとなってしまいます。これ以上人を減らせない、または人件費を下げられないという状況にあっては、その限られた人的資源で生産性を最大化する取り組みが必要となります。

オペレーションの見直しやIT導入による業務効率化がその最たる例です。今回の介護報酬改定においても、その影響がありました。

「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」[ⅱ]

上記の様に、入所系サービスでは見守り機器等を導入することで、夜間の配置基準や夜勤職員配置加算の人員配置要件が緩和される等しました。これらによって生じたマンパワーを別の事項に再配分し、効率化することで、新しい業務に取り組むことが可能となります。この時に取り組むべきなのが、科学的介護推進体制加算の算定や、特養における自立支援促進加算等、負担が大きいが今後の施設運営のカギとなるであろう新加算の算定と考えると更に良いかと思います。

また、人件費については直接の人件費だけではなく、採用に関係する周辺コストも大きなものとなってきています。特に人材紹介費や人材派遣費については、現在の人材難の状況がその上昇に拍車をかけています。

これらを解決するためには、「採用・教育・定着」の観点から様々な施策に挑戦し、効果的なものを選定していくということが大切になります。「価格が高い」「どうせうまくいくわけない」という思い込みは一度置いておいて、様々な施策の試験的な実施を是非ご検討いただくのが良いかと思います。

施策の実施と同様に重要なのが、自事業所の長所を求職者に知ってもらう「ブランディング」の取り組みです。先述の利用者の受入体制や加算の算定状況を今一度確認して、自社の強みを確認してみましょう。通所介護でも、例えば下記の様な打ち出し方をすることができます。

「介護度が高い方でも安心して暮らせるよう、目の届く小規模な施設で、通常より多くの人員を配置(※中重度ケア体制加算・認知症加算)。入浴も安心(※特浴の設置)」
「元気を継続できるよう、機能訓練だけでなく、専門職による栄養管理(※栄養改善加算)や誤嚥性肺炎の予防(※口腔機能向上加算)の取り組みに力を入れています」

特に、介護にとって情熱を持っている人材ほど、上記の様な根拠のある取り組みに反応します。是非、自事業所の強みを再度発見して、うまく打ち出していただければと思います。

今回、解説させていただいた通り、介護事業所の経営改善においては法改正の流れが実は密接につながってきています。加算への対応が充分ではなかった等、改めて見直していただくきっかけにもなり得るかと思います。自事業所の強みと呼べるものがまだない事業所様においては、本稿を参考に、今一度自事業所の在り方についてご検討いただけますと幸いです。

[ⅰ] https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032017865&fileKind=2
[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000768899.pdf
[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000186481.pdf

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