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介護事業所における管理者の育成

2021/10/29 14:27

齋藤 直路
株式会社スターパートナーズ代表取締役/一般社団法人介護経営フォーラム代表理事/脳梗塞リハビリステーション代表/MPH(公衆衛生学修士)

介護事業所における管理者育成の難しさ

介護事業を経営していく上で、事業所の運営管理をおこなうことのできる幹部・マネジメント層となる人材の育成は大きな課題となっています。何故なら、現在の介護報酬改定の流れでは、事業の拡大・法人の大規模化が促進される状態にあり、事業継続に必要な収益を確保するためには、新しい事業の創出と適切なマネジメントをしていく必要性に迫られているからです。実際に「新経済・財政再生計画改革工程表2020」においても「介護の経営の大規模化・協働化」が取り組み事項として示されています。

「新経済・財政再生計画改革工程表2020」より

具体的な影響としては、中長期的な単位の引き下げがあります。単位の引き下げは営業利益率の抑制につながり、事業を継続していくために必要な利益を確保していくためには、規模の拡大による収益の向上を検討しなければなりません。

また、単一事業所・小規模事業者での算定の困難な加算の創出なども進んでいます。例えば、通所介護所におけるADL維持等加算や栄養マネジメント加算等、リハビリ専門職や管理栄養士等の専門職の介入が必要となる加算が増えています。収益の維持にはこれらの加算の算定が必要となりますが、単一・小規模の事業所では、加算を算定するために必要な専門職の確保のための人件費の方が高くなってしまうというジレンマに陥ってしまいます。

この様な状況下において、優秀な管理者を育成し、新規の事業を立ち上げていくということは、法人の事業継続性を担保する上でも重要な課題となります。

弊社でも「介護経営フォーラム」の名称で2014年から開催している介護経営に特化した会員制の勉強会を通じて感じていますが、多くの介護事業所における管理者は介護に関する専門的な知識は有しているものの、事業所運営に必要なマーケティングやマネジメント等、事業運営に関する教育を受ける機会は決して多くありません。そのため、必ずしもスムーズに管理者業務をおこなえるとは限らないのが現状です。

また、「令和2年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書(公益財団法人介護労働安定センター)」によると、下図にあるように、介護事業所で働いている職員の内、上位の職種を志向している職員の割合は20%に留まり、キャリアの上昇を強く望まない層が大多数を占める結果となっています[ⅱ]。この様な状況下においては、上昇志向のある職員を見つけ出すとともに、管理者として成長していける環境を整えバックアップしていくための体制を構築することも重要となります。

「令和2年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」より

管理者に必要なスキルとなると、非常に多岐に渡ります。今回はマーケティングとマネジメントに着目します。実践の方法およびそれをどの様にして伝えていくべきかについてお伝えさせていただきます。

マーケティングに関する視点

介護事業所の運営をおこなっていく上でまず大切となるのが、稼働率の確保・向上となります。昨今は全国的に介護事業所の数も増え、競合も激しくなってきています。その環境の中で利用者を獲得していくためにはプロモーションの視点、マーケティングの視点を持ち、また地域連携の観点からも、ケアマネジャー等専門職との関係作りを継続的に実施していくための仕組みが必要となります。

例えば、営業に関していえば、単純に居宅介護支援事業所を訪問し「ご利用者様を紹介してください」と営業していくことに抵抗感を覚える職員もいます。反対に、ケアマネジャーから紹介を受けるということを素直に受け止めすぎて、戦略的な考えなく「紹介をしてください」と何度も訪問し、却って煙たがられてしまうという場合もあるでしょう。

まずは第一に、他の事業所ではなく自事業所の提供できる価値について、改めて確認することが重要です。配置されている人員や専門職、施設規模や設備、算定している加算や独自の取り組みなど、改めて整理するようにしましょう。特別養護老人ホームであるがリハビリ専門職を配置、寝たきり防止のための機能訓練の実施と離床促進をおこない自立支援促進加算も算定している、小規模の通所介護事業所で中重度ケア体制加算および認知症加算を算定、特浴もあり、人員体制も手厚いので要介護度の高い方、認知症の進んだ方の受け入れも可能等、地域の中で「自社が一番といえる強み」を整理します。

その情報を最新の利用状況と一緒にまとめ、月に1回訪問するというルールを設定します。訪問時には、簡単な事業所の説明と空き状況の説明に加え、世間話をするこというルールにすることで、自然な営業の実施を促すことができます。

また、実績の進捗管理を意識づけするため、各種KPIを日報等に記録・報告させることも重要です。各事業所ごとに、月当たりの業績目標等は設定されていることかと思いますが、目標の達成可否だけでなく、目標へ到達するまでのアプローチも管理していくことが重要です。営業件数や紹介件数、営業件数に対する紹介の割合や問い合わせから利用につながった割合などを管理することで、業績目標に到達するために必要な営業件数や利用につながる割合の改善等、優先的に着手すべき施策が目に見えるようになります。

この様に、まずは取り組むための環境を整え、しばらくは管理・指導のもとで営業活動をおこなえるレールを敷くことが重要です。これらが管理・指導の必要なく自身で完結できるようになることで、自律的な管理者としての道を歩みだすこととなります。

マネジメントに関する視点と事例

人材不足が大きな課題となっている昨今、職員を教育していく上でも離職を防止する上でも、管理者のマネジメント能力はとても重要になってきます。基本的な業務の指示はもちろんのこと、教育やメンタル管理なども大切になってきます。

そのためには、基本的な指導者としての姿勢を身に着ける必要があります。相談をされた場合は、できるだけそのためだけの時間を取る必要があります。別の作業を進めながら聞かない、いきなり否定をせずまずは受け止める、人前で叱責しない等、信頼関係を築いていく上で必要な事項を伝えます。特に新任の管理者の場合、新しい仕事に対する重圧からこういった基本事項を見落としがちになりがちですが、それらを差し置いても部下とのコミュニケーションが重要であることを伝えなければなりません。また、教育をおこなっていくための技術も教育する必要があります。仕事を依頼する際には理由や根拠もセットで伝えることや、部下の失敗に対して憶測等で批判せず、自ら改善策を考える様導くコーチングの考え方を指導することも効果的でしょう。

「それぞれの段階による制度や仕組の一例」スターパートナーズ社作成

これらの事項を実践していくためには、様々な仕組みや制度を整えることが必要です。上表にその一例をまとめさせていただきました。先述の様なマネジメント方針を実践するためには、上記にある様な「マネジメント規範」を作ることが効果的です。まずは簡易的なものからはじめ、活用をしながら実践例を組み込んでいくと良いでしょう。

また、上表の「評価」にある評価制度の構築は、教育を目的に整備することを前提として非常に効果的です。管理者として部下をマネジメントしていくためには、段階ごとに適切な目標を持って働き続けられるようなサポートをおこなうことが重要だからです。評価制度に基づいて、何ができるようになってこれから何を目指せば良いのか、制度の中で設計することが可能になります。また、同様の理由で、取得すべき技能・知識を明確化した「キャリアパス制度」も、効果的な制度であるといえるでしょう。

また、コミュニケーション機会を作るきっかけにもなります。弊社が手伝いする評価制度の構築では、必ず3ヶ月に1回程度、通常業務とは切り離した状態で、面談をおこなうことをルール化しています。目標設定に加え、仕事やプライベート上の悩みなど、なかなか日々の業務の中のコミュニケーションだけで知ることができないことを聞くことができるからです。日々の業務に追われている現場兼務の管理者の場合、そのための時間を確保することが難しく、実施が先延ばしになってしまう傾向があります。しかし、先述した通り、部下の管理は他の業務を差し置いてでも実施すべき管理者の最優先業務となります。面談の実施も、評価対象項目とすることが効果的です。

将来の管理職を育成するという観点からも、評価制度は有効です。冒頭で、介護職はそもそも管理者としての教育を受ける機会が無い、ということをお伝えしましたが、特に中堅クラスの職員の評価項目に対して、上記でお伝えした様なマネジメント規範の考え方を導入することで、新人等、後輩の指導に当たる時点から、教育・育成のための視点を持つように促すことができます。また、実績数値について意識・把握していることを把握する項目を導入することも効果的です。事業所運営において必要となる数値に対する感覚を意識づけすることにつながります。

挙手制の管理者育成研修を定期的に開催している法人様もいらっしゃいます。ある特別養護老人ホームでは、経営トップが2ヶ月に1回、マーケティング、マネジメント、介護報酬と2回ずつテーマを区切って、研修と実践発表を各1回ずつ開催しています。こうすることで、基本的な知識を学びながら実践を重ねていくとともに、上昇志向のある職員へ直接指導・育成をおこなうことができる体制を構築されています。また、トップ自らの価値観、考え方を直接伝える機会を作ることそのものも、生え抜きの幹部を育成する上ではとても重要なこととなります。

その他にも、外部研修の活用はもちろん、同業種の成功事例視察や他業種の視察、幹部合宿の実施を実施されている法人様もいらっしゃいます。従来の業務に従事しているだけでは触れることのできない、実際に経営トップが触れている情報や経営トップの考えを伝える機会を設けることも、管理者育成には大切な視点となるでしょう。前掲の表をチェックリストの様に活用し、自社の取り組みを再確認されてはいかがでしょうか。

以上の様に、管理者育成のポイントを抑えるとともに、将来の管理者候補を育成していく体制を法人内に整えていくことが、最も効果的な管理者育成の考え方といえるのではないかと思います。是非、取り組めることから着手し、事業運営の一助としていただけますと幸いです。

[ⅰ] https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_201218_2.pdf
[ⅱ] http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2021r01_chousa_cw_kekka.pdf

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