介護通信ヘルスケア業界のWEBメディア
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介護保険外サービスの状況

2021/09/30 10:00

齋藤 直路
株式会社スターパートナーズ代表取締役/一般社団法人介護経営フォーラム代表理事/脳梗塞リハビリステーション代表/MPH(公衆衛生学修士)

介護報酬の見通し

9月10日に厚生労働省が公表した「介護保険事業状況報告」の最新版によると、令和元年度の介護保険の給付額は10兆7,812億円となり、前年度比で3,500億円上昇したことが示されました[ⅰ]。要介護認定者数も増加の一途を辿っており、今後も高齢化が進んでいくなかで介護保険給付費の増大は避けられない状況です。

その影響を大きく受けると考えられるものの一つが「介護報酬」です。今年度の改定は基本報酬の引き上げを踏まえてプラス改定とはなったものの、LIFEの導入による事務手続きの増大や一部加算の要件の厳格化等、単純な引き上げとは言えない状況ではないでしょうか。また、訪問看護によるリハビリテーションの提供や通所リハビリテーションの包括報酬化等、今回は見送りになったものの、今後の報酬改定に不安を残す内容でした。

下図によると、近年の報酬改定は、大幅な引き下げは平成27年度以降おこなわれていないように見えます。しかし、平成27年以降の引き上げの内実も、処遇改善や消費税の引き上げに伴うものであったり、要件の厳格な加算を取得することを前提としたものになっています。

「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」[ⅱ]

結果として、売上がなかなか向上しない中で人件費やICT等導入による設備投資の上昇等、負担は増えていくという流れになっており、従来の事業所運営では限界を感じ始めている事業者も増加しています。これは、増大化する社会保障費を抑制するための流れとして、今後も継続していくことが懸念されています。一方で人件費やその他経費は年々増加し、定着率が高いほど、人件費も増加しているというジレンマがあります。

そんな中で注目されているのが、従来の介護保険事業に加えて、介護報酬の改定に左右されない、介護保険以外の収入源となるビジネスを立ち上げる動きです。高齢者配食等、既に生活サービスとして認知が広がっているビジネスモデルに加え、自費のリハビリや自費の訪問看護介護等、比較的新しい形のサービスも、徐々にご存じの方も増えてきているのではないでしょうか。弊社も日本全国及び海外にて保険外のリハビリ事業を9施設運営しております。今回はこの保険外事業について解説してまいります。

保険外ビジネスの考え方

介護保険事業所が保険外ビジネスを考えるとき、重要になるのは2つの視点です。1つ目が、現在の顧客(高齢者)を対象としてさらにサービスを提供できないかを考える視点、2つ目が、現在のメンバーで新しいサービスを提供できないかという視点です。

保険外ビジネスの2つの視点(スターパートナーズ制作)

前者の考えは、現顧客やそれに類する層、「高齢者」の生活に対して、従来の介護保険サービス以外の面で支援することを目指しています。介護保険事業と同一の顧客または見込み客を対象とした事業を展開することで、顧客一人あたりのLTV(ライフ・タイム・バリュー)の最大化を目指します。近年では介護付きの旅行サービス等の例をお聞きになることも増えているのではないでしょうか。

後者の考えは、現在、働いていている職員の経験や技術を活用して、地域の新しい顧客に向けてサービスを創造することを目指します。人的リソースを有効活用し新たな売り上げを創出することで生産性の向上を実現できるとともに、職員の新しいキャリアを創出することが可能になります。定着率の高い事業所ほど人件費は年々上昇し、一方でポストはどんどん埋まっていってしまいます。新しいポストを作ると同時に、自費事業の立上げに参画というキャリアは、技術もやる気もある職員にとっては大きなモチベーションとなります。

いずれも、現在運営している介護事業所と同時に運営するハイブリッド化を目指すことで、事業間のシナジーが見込め、生産性の向上にも大きな期待ができます。また、最近は、ヘルパー職や看護職、リハビリ職の中で、求人をインターネット検索するとき「自費」のキーワードを入れる層が出てきています。こういった層は傾向として新しい取り組みに興味を持った向上心のある人材である場合が多く、人材確保という側面でも、保険外事業は期待できる点が多くあります。

保険外ビジネスの具体例①自費の訪問介護・看護

自費の訪問介護・看護は、介護保険サービス内では提供が難しいサービスを、専門的な資格を持った職員が保険適用外で提供するサービスになります。主な用途としては、公共交通機関、自家用車などでの移動やお盆、お正月、ご家族の集まりなどのイベント時の一時帰宅、国内外の家族旅行等への付き添い、在宅での看取り期におけるご自宅での長時間同行サービス等となります。

数年前には大都市部を中心にしか見られなかったサービスですが、現在はそのサービス範囲も広がってきており、サービスとしての認知度も徐々に向上してきている様子です。ただ、単価は地域によって大きく異なり、地方部では5,000~6,000円/時間程度であるのに対し、主要都市圏は10,000円/時間を超える料金設定の場合も多くあります。このあたりは、地域性を鑑みた料金設定をおこなうことが必要となるでしょう。

また、従来の自費訪問介護・訪問看護サービスは、介護保険で対応できない事項に対してオーダーメードのサービスを提供するというのが主流でしたが、徐々にサービス内容の差別化が進んでいます。通常のサービスに加えて、定期的な電話連絡による服薬確認を定額サービスとして提供する例や家事代行も請け負う例、夜間・延長・看取りサービスを受けるためには無料会員登録をおこなった利用者に限定して提供する例等、新サービスの開発や差別化を通じて利用者確保を図る動きが出てきています。介護保険事業においても看護師は重要な資格となり、顧客も従来事業と重なりますので、今後、介護事業者による自費の訪問介護・看護サービスの提供は増加していくものと考えています。

その中で事業運営を成功するポイントは、先述の様な利用者確保のための差別化と、地域の専門職への周知になると考えています。特に、ケアマネジャー等地域の専門職の理解を獲得することが、保険外サービスにおいてはとても大事なことになります。

「保険外サービス活用推進に関する調査研究事業(令和2 年度老人保健事業推進費等補助金)」によると、ケアマネジャーの65%以上が、保険外サービスは事業者の質等の判断が難しいことやサービスが高額であることを理由に、保険外サービスを推奨することが難しいと回答しています[ⅲ]。一方で、利用者および家族は、保険外サービスの情報源となるのは6割がケアマネジャーと回答しています。利用者および家族の多くがケアマネジャーを頼らざるを得ない状況下で、ケアマネジャーはサービスの内容の不明瞭さや料金体系を理由に、十分なサービス紹介ができていないということができます。

「保険外サービス活用推進に関する調査研究事業(令和2 年度老人保健事業推進費等補助金)」[ⅲ]

これを解消するには、保険外サービスを運営する側の努力が不可欠となります。例えば、高齢者向け配食サービスについては、保険外サービスではありますが現在はケアプランに組み込まれることも珍しくなくなっています。新しい保険外サービスを立上げ、同様の認知レベルになるためには、地域での徹底した周知活動が不可欠でしょう。

保険外ビジネスの具体例②自費のリハビリサービス

自費のリハビリサービスは、主に脳梗塞等の疾患を原因として麻痺等の後遺症を持った方が、保険内で受けられる以上の質・量を求めて利用されるリハビリサービスになります。要介護者ももちろん対象となりますが、介護度は自立でも麻痺が残っており、改善の為に努力を続けたいという方々も対象になることから、顧客層はより広くとらえることができます。

こちらも近年全国的に数を増やしてきており、大都市圏のみならず地方部でも開設が進んでいますが、いまだ進出の無い県も複数あります。単価は自費の訪問介護・看護と比較するとやや高く、地域にもよりますが、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった国家資格を持ったセラピストとマンツーマンでの施術を1時間以上おこなうことで、概ね10,000~20,000円/時間となります。

こういった自費のリハビリサービスは、「高齢者向け住まいにおける介護保険サービスと介護保険外サービスの実態に関する調査研究(令和2 年度 老人保健事業推進費等補助金)」(筆者も有識者として参加)にて、好事例として整理して掲載されています。その報告書によると保険外のサービスはまだ途上の段階にあり、事業者同士の情報共有や「ガイドライン」の制定、消費者への啓発が重要と結論づけられています。[ⅴ]

採用についても非常に訴求力が高く、当社の運営する脳梗塞リハビリステーション・グループでは、全くコストをかけない状況で月に3~10件程、セラピストからの求人問い合わせが継続してあります。志望してくる方も、退院後の生活期に介入することでよりご本人の希望に沿ったリハビリを提供したいという志を持った方が多く、経験・技術ともに一定の水準を超えた方の割合が高いです。

介護保険事業とのシナジーという面で考えると、顧客層が一部重なることに加えて、リハビリ職等の専門人材の活躍する領域として位置付けることができます。既存事業の管理者として勤務していたセラピストが兼務で勤務したり、従来の事業所に併設する形で開設し、介護事業の兼務管理者候補としてセラピストを募集し成功した事例もあります。後者の場合、介護事業との兼務かつ介護事業所の一部を間借りすることができれば、想定よりもはるかに小さい初期投資ではじめることができ、かつ高度専門人材の確保にもつながることが期待できます。こちらも非常に介護保険事業とシナジーの高い保険外ビジネスであるといえるでしょう。

当社の運営する脳梗塞リハビリステーション・グループのホームページ[ⅲ]

今回ご紹介した以外にも、例えば事業所の展開する地域での人材紹介事業を関連会社がおこない、保険外収入の確保に加えて人材採用の課題に対応するといったケースも登場してきております。全体的にいえるのは、数年前はわずかな数だった新興の保険外ビジネスも、徐々に全国に数が増えるとともに内容が洗練されつつある、ということです。

従来、保険外事業は引き下げが続く介護報酬への対応として新しい収入減を確保する意味合いが強くありました。しかし、現在は様々な事業が立ち上げられており、売り上げの確保のみならず介護事業の課題の解決や更なる発展につながるようなモデルも生み出されつつあります。いずれの事業も人材と何らかの形でつながっており、今後の介護業界の展開の試金石となるのではないかと考えています。

今後も介護事業を発展、継続していく上で、更なるチャレンジが必要となります。今回のレポートをそのご一助としていただけましたら幸いです。

[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/17/index.html/
[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html
[ⅲ] https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38675
[ⅳ] https://kyu-reha.jp/teikei/
[ⅴ] https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38669

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