介護通信ヘルスケア業界のWEBメディア
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ポストコロナ時代の人材採用戦略

2021/09/01 10:00

齋藤 直路
株式会社スターパートナーズ代表取締役/一般社団法人介護経営フォーラム代表理事/脳梗塞リハビリステーション代表/MPH(公衆衛生学修士)

採用市場の状況と新型コロナウィルス感染症の影響

介護業界における採用市場は、年々厳しさを増しています。総務省統計局の「労働力調査(2020年度)」によると、令和2年度次の医療・福祉分野での就業人口は、宿泊業、飲食サービス業等、他のサービス業の就業人口が大幅に減少しているのに対し、前年対比で17万人増加しました[ⅰ]。このことから新型コロナウィルス感染症の影響を受けて他産業の雇用が失われていく中で、福祉業界で働く人が増えていることが伺えました。
しかし、最新の「福祉人材センター・バンク 職業紹介実績報告」によると、令和3年6月度の有効求人倍率は4.39倍となっており、前年同月比で1.02ポイントと大幅に低下しているものの、依然高い水準を維持しています[ⅱ]。

福祉人材センター・バンク 職業紹介実績報告【令和3年6月】

「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」では、今後の見通しについて、2025年時点で約32万人介護人材が不足することが指摘されています[ⅲ]。第7期の発表では、2025年時点で55万人の介護人材が不足すると指摘されていたことから、若干緩和が進んでいることが確認できますが、それでも非常に厳しい状況が続く見通しとなっています。
これからの介護経営を考える上で、人材確保に関する課題を避けて通ることはできません。新型コロナウィルス感染症の蔓延は様々な価値感の変化をもたらしました。採用においても既存の価値観から一歩踏み出し新しいチャレンジをおこなう時期がきているのではないかと考えています。どんな取り組みに新しく着手していくべきか、人材戦略の見直し、特に介護補助や外国人人材の活用の観点と、コロナ禍における具体的な採用手法の視点から、お伝えをすることができればと考えています。

人材戦略の見直しと介護補助の求人

都市部を除く地域においては、介護業界に限らず、全産業的に働き手そのものが不足しているという状況も出てきています。この様な地域においては、ハローワークや人材紹介等の手段を積極的に用いても、なかなか人材の確保に結び付けることが難しいことも少なくありません。
この現状に対応するには、まず、地域から大量の介護人材を確保する、という考え方そのものを見直す必要があるかと考えています。「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」によると、令和元年度時点での介護職員数は約211万人となっており、人口対比で60人に1人程度しか介護の仕事に就いていない計算になります。非常に限られた就業者を施設間で奪い合うのではなく、すそ野を広げていくという発想が今後は重要になってきます。具体的には、下図の様に未経験者の積極雇用や介護補助の導入、外国人人材の活用を検討し、新しい働き手の層を人材戦略における柱として位置付けることが重要になってきます。

スターパートナーズ作成

上図は、ある特別養護老人ホームにおける、職員の常勤換算での構成比率の、将来的な目標を示したものになります。これまで活用していなかった人材を取り入れることで、従来は13必要だった介護職が10に減少し、人的な課題を2~3割程度緩和することができる見込みとなっています。
未経験者や介護補助の採用については、実際に各地で実績も出てきています。ポイントは「介護職」として募集するのではなく「高齢者の身辺の支援業務」とすることで間口を広げることです。こうすることで、これまで介護の経験が無かった方や、介護そのものは難しいと考えているシニア層にもアプローチをすることが可能になります。また、入口のハードルをできる限り下げることで、ブランクのある復職者や介護という仕事に対して抵抗のある方からも応募を獲得することができます。実際に、新施設開設時の求人で「身辺の支援業務」を業務として面談に来た求職志望者の約60%の方が「介護職」として採用となった事例もあります。
「掃除が好きな方」「少しの時間を有効に使いたい方」など、主婦目線で仕事内容を訴求していくこともポイントです。未経験の方やシニア層にも、実際の業務が具体的に想像でき、応募しやすい求人となります。面接に漕ぎつけた後に、実際に担当する業務や条件の違いを説明した上で、介護職と介護補助のどちらを希望するか、改めて確認する形が良いでしょう。
介護補助を募集する際の準備として重要なのは、現場の業務オペレーションを一度見直すことです。例えば介護職が、リネン交換や掃除、洗濯、食事準備等、専門性の伴わない業務に毎日数時間費やしているとしたら、介護補助が活躍するチャンスです。記録業務についても、ある程度の知識が伴えばお願いすることもできます。そういった業務を補助の方に任せ、介護職としての専門性を発揮する時間をより多く確保することで、介護の質の向上や加算の対応にもつなげることができます。
上記に関しては、私も有識者委員として参加した厚生労働省老健局補助事業「令和2年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 東北地方における介護未経験の高齢者人材等の確保及び業務分担に係る好事例事業者の取組の分析等に関する調査研究事業 報告書」(事務局:みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)において、事例検討がされていますので、ご参考にしていただければと思います[ⅳ]。

外国人人材の活用

介護補助に加えて、是非検討をしていただきたいと考えているのが外国人人材の活用です。特に、地方部等の人口の絶対数が少ない地域においては、未経験者の採用や介護補助の活用を推進していったとしても、近い将来に限界がきてしまうことでしょう。地域の人口動態に左右されない人材として、外国人介護職は非常に重要な位置づけになると考えています。
現在、外国人人材が介護現場で働く手段として「留学生」「外国人技能実習生」「特定技能」等があります。このうち「外国人技能実習生」については、新型コロナウィルス感染症の影響もあり、渡航が制限されている環境から、すぐに着手することは難しいと考えられます。
一方で、日本国内で「特定技能」を取得するために必要な「介護技能評価試験」および「介護日本語評価試験」に合格し、介護現場で働く外国人人材は増加を続けています。

「介護分野における特定技能外国人の受入れについて[ⅴ]」を基にスターパートナーズ作成

これは、他の分野で就労していた「留学生」等の人材が働く場所を失ってしまい、比較的在留資格の得やすい介護の「特定技能」にシフトしてきているという背景があります。また、日本語学校を運営する法人等が、実際に国内で職を失ってしまった外国人人材に対し試験対策や日本語教育をおこない、介護施設へのあっせんをおこなうといったこともおこなわれています。今後しばらくは「特定技能」が介護現場における外国人人材の活躍の主流になるものと考えています。
ただ、今後も「特定技能」を用いて介護現場で働く外国人人材が増えていくことになると、人材獲得で競合するのは地域の法人ではなく、日本全国の介護施設ということになります。都市部等、給与面や環境面のより良い求人に人気が集まることになります。そういった競合の中から働き手に職場として選んでもらうには、様々な工夫が必要になります。
弊社が独自に「特定技能」の登録支援機関へのヒアリング調査を実施したところ、多くの外国人人材が給与だけでなく、東京、名古屋、大阪などの大都市を希望し、また、比較的暖かい地域を希望しているということがわかりました。自施設を選んでもらうには、選ぶだけの理由を明確に説明できなければなりません。
給与面だけでの訴求は地域差があるので難しいですが、生活コストの差異や寮の整備、法人や地域そのものが持つ独自性等、適切にPRしていくことが大切になります。日本人に限らず、外国人人材も働く場所を選ぶ時代になってきています。自法人で働くことのメリットについて、見直してみるのも良いのではないでしょうか。

試していない求人手法にチャレンジする

ここまで戦略的な解説をしてきましたが、それ以外にも、是非、試していただきたい各種施策もあります。
これまでハローワークや人材紹介等が主な採用媒体であった法人様には、直接求職者にアプローチする手法も検討していただきたいと考えております。具体的には新聞折込チラシやポスティング、インターネットの検索広告等です。
チラシ配布については、最近は新聞の購読率も下がってきていることもあり、ポストに直接投函するポスティングチラシの方が反響が良い傾向にあるようです。先述した介護補助の求人の成功例も、ポスティングを実施することで成功したものでした。一定のコストはかかりますが、現状の求人コストと比較しながら、一度、試行していただくことをお勧めします。
人口が多い地域については、インターネット上の検索広告も成果を上げています。現在、特に就業している年齢層の方々は、求職する際にはまずはインターネットで検索をかけるというのが一般的です。GoogleやYahoo等の検索エンジンに広告を出し「●●(地域名) 介護 求人」等のキーワードを検索している人を、自社の求人サイトに誘導します。こちらも一定のコストがかかりますが、自法人で実際に働いている職員の属性や就業を決めた理由等を確認し、そこを強く訴求することで、応募の反響率を上げるといった工夫も可能になります。
反響があった場合のみにコストがかかる手段としては、職員からの紹介を推進することも有効です。紹介制度については、取り入れたが実績につながらなかったので辞めてしまったというケースも多く聞かれます。しかし、紹介制度は短期間で簡単に成果のあがるものではありません。成果につなげるには、定着するまで繰り返し伝え続けることが重要です。ある社会福祉法人では、給与明細を手渡すときに繰り返し案内のチラシを一緒に渡し声掛けをすることで、年間10名を超える紹介につながったという事例もあります。根気よく続けてくことが重要です。
また、コロナ禍に対応した取り組みも重要になってきています。感染予防に関する取り組みや新型コロナウィルス感染症の発症者が出た場合の対応、休業になった場合の給与の補償や対応指針等、求人票に明確に打ち出すことで、求職者に安心感を与える工夫も有効です。
是非、取り入れていただきたいのはZoom等を活用したWeb面談の実施です。感染予防の施策としても有効ですし、スピーディーに面接を設定することが可能なので、応募者への早期接触による採用率の向上にもつながります。例えば、令和3年6月のある地域の介護求人数に対して、オンラインでの面談可能求人は約3,300件の全求人に対して100件と少数でした。オンライン面談ができることで目立つ求人となる可能性もあります。求職者に対しても、新型コロナウィルス感染症に対して柔軟に対応している事業所であるという印象を与えることができるでしょう。

以上の様に、求人活動をおこなう上での施策にも、まだまだ工夫ができる余地が存在しています。環境が大きく変化している時期においては、変化に対応するための施策をより多く試行することが、事業を存続していく上でとても重要になってきます。
本稿が、介護事業者様における今後の人材戦略を考え直す一つのきっかけとなることができましたら、幸いに思います。

[ⅰ] https://www.e-stat.go.jp/
[ⅱ] https://www.fukushi-work.jp/toukei/index_2.html
[ⅲ] https://www.mhlw.go.jp/content/12004000/000804129.pdf
[ⅳ] https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/r02mhlw_kaigo2020_07.pdf
[ⅴ] https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_000117702.html

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