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介護現場における生産性の向上と業務効率化(後編)

2021/07/29 11:00

齋藤 直路
株式会社スターパートナーズ代表取締役/一般社団法人介護経営フォーラム代表理事/脳梗塞リハビリステーション代表/MPH(公衆衛生学修士)

生産性の向上と業務効率化を通じて目指こと

前回は、介護現場における生産性の向上と業務効率化について、その基本的な考え方と実施していくための手順について解説しました。今回は、具体的な事例をご紹介しながら、より詳細に解説をさせていただければと思います。

業務の効率化を図っていく目的は、科学的介護の推進に対応することや加算に必要な取り組みを増やすことであるとご説明しました。ケアに直接関係しない業務時間や内容を効率化することで、ご利用者の状況についてより多くの情報を管理したり、介入の量を増やすことで、介護の質を高めることを目指すことになります。この考え方を職員に伝えることはとても重要です。時として効率化という言葉は、利用者と関係する時間を効率化する、つまり「介護の質・量」を減らすことであると誤解を受ける場合もあるからです。

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(厚生労働省老健局)[ⅰ]

上記の、厚生労働省の示す資料の通りに、目指すべきは、業務時間量を効率化し、ケアに直接関係する業務時間や内容をより増やすことです。その結果、新しい取り組みに充てるべき時間を確保することができます。では、その確保した時間はどのように活用したらよいでしょうか。その一例を2つご紹介します。

【1.介護報酬改定対策の時間の確保】
まず考えられるのは、今回の介護報酬改定の対策にかかる時間に充てることです。科学的介護を推進する流れから、ご利用者に関する情報をより多く取得することが求められたり、それを記録・入力して、LIFEへ提出することが求められています。これらは新しい取り組みであることから、従来の業務時間にそのまま上乗せされることになります。業務時間を延ばして対応することではなく、業務時間を効率化して対応することを目指すべきです。

【2.質の向上に向けた取り組みの時間の確保】
また、もう一つは介護の質の向上の為の施策をおこなうことです。介護の質を高めようとするためには、時間がかかります。しかし、利用者の信頼や職員のやりがいを創出するためには、やはり本質的な介護の質を向上させていく取り組みは必須となります。その為の時間を、今後は確保していくことが重要になります。

それらをわかりやすく伝える一例として、コンサルティングの現場では機能訓練と栄養状態の関係性の課題についてご紹介させていただくことが多くあります。「ADL」の改善には個別機能訓練での身体的なリハビリテーションを通じた介入がフォーカスされがちですが、実は「栄養」の観点も重要となります。以下は、弊社でおこなったデイサービス事業所での利用状態の調査結果の一例になります。(栄養状態の評価にはネスレ社の「簡易栄養状態評価表(MNA-SF)[ⅱ]」を利用しています)

「運動特化型半日型デイサービス(登録100名程度)のケース」(スターパートナーズ調べ)

機能訓練を目的とした、平均介護度の比較的低い事業所でも、低栄養もしくは低栄養リスクを抱えた利用者が約4割存在しているという結果になりました。適切な機能訓練を実施していたとしても、低栄養に対するスクリーニングと適切な介入ができていなければ身体機能の改善、ひいては基本動作やADLの改善に結び付けることはより困難となります。

こういった事例を示すことで、ご利用者様の状況を正しく把握することで介護の質が高められる可能性があるということを職員に示し、新しい取り組みの重要性と、それを実現するために業務を効率化し時間を創出することの重要性をお伝えできるかと思います。是非、この様な例を取り上げながら、一度、組織内で話し合いの場を持たれてはいかがでしょうか。

現場の状況を正しく把握する

実際に、生産性の向上と業務効率化に取り組む際には「①経営的な目標と現場的な目標の設定」「②全体研修」「③現状の正しい把握(オペレーションチェック)」「④業務改善計画の立案」の流れで実施することが大切であることをお伝えしました。「①経営的な目標と現場的な目標の設定」「②全体研修」で、現場の理解を獲得し、「③現状の正しい把握(オペレーションチェック)」で現場の実際の状況を把握、それをもとに「④業務改善計画の立案」をおこなうという流れになっています。

「①経営的な目標と現場的な目標の設定」「②全体研修」については、前述したご利用者の状況についてより多くの情報を管理したり、介入の量を増やすことの重要性を伝えていただければと思います。「③現状の正しい把握(オペレーションチェック)」については、「職員へのヒアリング」「職員の業務表の確認」等を実施することが一般的方法と考えられていますが、お勧めしたいのは、数日間、実際の職員オペレーションを確認するための取り組みをおこなうことです。これは、1日を10分刻みで記録可能な帳票を準備し、任意の数日を対象に、出勤した全ての職員がその1日の中で実施した業務を記録、その全体を取りまとめることで、事業所でおこなわれている業務の流れ全体を見える化することができるようになります。これらの取り組みには、ICTを活用して記録することも可能でしょう。

「オペレーションの可視化の帳票イメージ」(スターパートナーズ社作成)

上記の様なツールを使用してオペレーションを可視化した後、かかる時間の多い業務やオペレーション上の齟齬を検討し、業務改善計画を立てていきます。この時、サービスの提供時間や、サービスにかける時間・意識・職員配置が適正であるかの再確認や、特にマンパワーが必要な時間帯の把握、業務間の相互の影響の検討等をおこないます。この際に、仕組みの導入で時間を短縮できる可能性はないか、本当にこの業務は必要か(“当たり前”になっていないか)、固定の時間で提供しているサービスも前後移動できないかといった、これまで当たり前だったことを見直すという視点も重要になります。

具体的な事例

前述のオペレーションチェックで改善した事例についてご紹介します。

【1.デイサービスの事例(1日の流れの効率化)】
あるデイサービスでは午後の時間帯に新しく個別機能訓練プログラムを実施することを想定していました。しかし、入浴が午後に長引くなどの影響で、実施が難しい状況でした。
そこでオペレーションチェックを実施したところ、送迎の出発の時間のばらつきが職員の戻る時間のばらつきに影響し、そして更に入浴の開始の遅れにつながって、午後の時間帯にまで影響を及ぼしているということがわかりました。そこで、送迎時間と入浴開始時間、入浴終了時間を明確にルール化することとしました。また、午後の時間帯に実施していた30分程度のティータイムを取りやめ、面談やプログラム提供に転換することを決定しました。結果、職員の意識づけができたことで入浴も概ね午前中に終わり、午後の時間に個別機能訓練プログラムを実施、加算を算定することのできる体制が構築できました。

以上の様に、実態を把握し実施すべき対応を整理することで、業務効率化がされるということもあります。また、実態を把握した結果、ICTの導入が有効であるという判断がされる場合もあります。

【2.通所リハビリテーションの事例(入浴誘導の改善)】
入浴導線が長い施設等の場合、フロア担当が頻回に入浴誘導をおこない、その時間が想定よりも多くなってしまっているというケースもあります。この様な場合、入浴のタイミングを適宜知らせるための手段としてインカムを導入しているケースもあります。施設が広い場合等、人を探す時間が多くなったりしている場合等も、有効な手段と言えます。

こういったICT機器を導入するときに重要なのは、委員会等でその運用ルールについてしっかり吟味し、使用する上でのルールの設定をおこない混乱を避ける工夫などが必要になるということです。誰に対する発言なのか、それを受けた側は発言を承諾したのか等、発信する側と受ける側の双方向に配慮がなければ、コミュニケーションを潤滑にするはずの機器も、その取扱いによってはコミュニケーションを阻害してしまう場合もあります。

【3.特別養護老人ホームの事例(介護職員の業務分担と記録の改善)】
ある特別養護老人ホームでは介護職員の残業が常態化していました。オペレーションチェックを実施すると、記録業務に課題があることが判明しました。更に判明したこととして、午前、午後の特定の時間については、掃除や換気、食事の準備等、必ずしも介護職が担当しなくても良い業務に、想定より多くの時間が割かれていることがわかりました。

介護職の残業時間を削減することを目的として、これら専門的知識の不要な業務について担当する介護補助の採用を進め、そこでできた時間に記録業務を進める体制に変更しました。記録業務をより潤滑に進めるため、タブレット機器の導入を進め、適宜記録をおこなえるような体制を構築するための検討も進めています。
記録業務については、特定の職員は早いがそれ以外の人はどうしても時間がかかってしまうという場合があります。そんな時には、音声入力機器や記録フォーマットの整備等をおこなうことでキー入力速度を最適化し、記録時間の短縮につながったという事例があります。

【4.特別養護老人ホームの事例(管理者・リーダークラスの業務内容の改善)】
ある特別養護老人ホームでは、リーダークラスの介護職員が夜勤終了後も2~3時間の事務処理業務をおこなっている日が存在することがわかりました。この職員は、勤務時間帯は介護職員としての業務のみを実施し、勤務終了後に自分の担当する事務処理をおこなっていることがわかりました。

管理者クラスの業務は代替が難しく、こういった状況が発生してしまうことはままありますので、これらの業務負担を軽減するための取り組みの検討が必要です。例えばシフト管理業務等は、シフト作成ソフトも進化しており、一定の試行期間を経た後、劇的にシフト作成時間が改善されたという例があります。また、リーダークラスが抱えている全ての業務を棚卸し、それをシートに落とし込んで、他の介護職員が代替可能な業務について指定することで業務負荷を軽減したという例もあります。課題を明確にすることで、業務の見える化や整理、時としてICTの導入の検討をおこなうことで、業務を効率化した例と言えるでしょう。

以上の様に、介護現場における生産性向上や業務効率化を図る上では、是非抑えておいていただきたいポイントが数多くあります。是非、当レポートをご参考としていただき、皆様の事業所でのお役に立てていただけましたら幸いです。

[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei.html
[ⅱ] https://www.mna-elderly.com/forms/mini/mna_mini_japanese.pdf

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