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介護現場における生産性の向上と業務効率化(前編)

2021/07/08 09:00

齋藤 直路
株式会社スターパートナーズ代表取締役/一般社団法人介護経営フォーラム代表理事/脳梗塞リハビリステーション代表/MPH(公衆衛生学修士)

介護報酬改定と業務効率化の必要性

介護報酬改定について、ご利用者への説明や様式の変更等対応も進んでいる一方で、新加算への対応等については、職員から現在の業務で手一杯で、更に新しいことをするのは難しいという声も聞かれているようです。とはいえ、質の向上や、売上を維持する観点からも加算を算定していかなければなりません。特に今回の改定では、LIFEや科学的介護の推進の方向性に大きく舵が切られました。科学的介護を推進する上では「測定」「入力」「報告」といった作業がそのまま増えることになります。

「令和3年度介護報酬改定の主な事項」(2021年3月、厚生労働省)[ⅰ]

現場では既存の業務で手一杯という状況下で、LIFEに対応したり、新加算を算定していくためには、できるだけ業務を効率化しそのための時間を捻出しなければなりません。このためには、生産性の向上や業務効率化が必要となってきます。

しかし、「業務を効率化する」と一言でいっても、世の中には様々な誤解が存在しています。コンサルティングの現場や、当社主催のセミナー等で「介護現場の業務効率化」という言葉についてのイメージを伺うと、様々なご意見をいただきます。「『介護ソフト』『タブレット端末』『ロボット』といったIOT・ICT技術の導入」「優れた機器を導入できれば一挙に効率化が図れる」といったIOT・ICT技術の導入により達成するというイメージをお持ちの方もいらっしゃる一方で「利用者との会話の時間を削ったり、介護の内容を簡素化するなど、対利用者の業務時間を削減する」「人の手を省く冷たいイメージの介護」といった介護を犠牲にしてしまうのではないかという声、「ただでさえ忙しいのにこれ以上新しいことは無理」「そもそも介護は効率化できない」といった現場職員の反発を懸念する声等、ややネガティブな意見も聞かれます。

これらのご意見は、イメージが先行し正確ではありません。介護現場における生産性の向上と業務効率化を進めていくためには、まずは正しい考え方を知り、そして実際の取り組み方について理解する必要があります。これらの一連の流れについて、今回、次回の2回に分けて解説させていただきます。

業務効率化を図る上でのポイント

まず、業務効率化を図る上で大切なのは職員の理解を得ることです。職員に対して正しく伝えるためには、まず「介護事業所における業務効率化とは、ケアそのものを効率化することではない」ということを理解しなければなりません。

厚生労働省老健局の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」では下図の様に示されています[ⅱ]。

「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(厚生労働省老健局)[ⅱ]

介護現場における生産性の向上は、図の左側の「①質の向上」にあるように、ケアに直接関係しない業務時間や内容を相対的に削減することで、ケアに直接関係する業務時間や内容を増やすという考え方です。つまり、ケアに必要な時間をより多く確保するというのが基本の考え方となるのです。

効率化とはICT化のみが手段ではない

現場との意思統一ができたところで、業務効率化を進める段となります。この段階で、多くの事業所ではまず、ICT機器の導入について検討をされることと思います。しかし、ICTの導入が必ずしも生産性の向上につながるわけではありません。いくつかの失敗事例を見てみましょう。

【失敗事例①】
ある特別養護老人ホームでは、設立から30年が経過、半数以上が創業時からのスタッフで運営されており、記録も創設以来ずっと紙でおこなっていました。時代の流れを受けて、施設ではソフトの導入を決定しましたが、ほとんどのスタッフがパソコンを利用できませんでした。また、データ入力可能なパソコンも1台しか導入しませんでした。結果、業務負荷がパソコン入力のできる一部のスタッフに集中してしまったり、データの入力時間が重なることで渋滞が生まれ、従来より記録に時間がかかる結果となってしまいました。

【失敗事例②】
あるデイサービスでは、コミュニケーション型のロボットを導入しました。導入当初は既存のプログラムを活用しレクリエーションなどを実施していましたが、だんだんとプログラムがマンネリ化してきてしまいました。導入時には、プログラムをアップデートすることで多彩なレクリエーションが実施できるという話ではありましたが、アップデートにもスキルが必要であったことから現場では十分に使いこなせず、やがて活用されなくなってしまいました。

この様に、ICTや介護ロボットを導入したからといって、すなわちそれがすぐに業務効率化につながるとは限りません。場合によってはせっかくの投資が無駄になってしまったり、却って現場を混乱させてしまうという場合もあります。ICTや介護ロボットの導入は、あくまで生産性向上の手段の一つに過ぎません。現場の状況を正しく理解し、現場の状況に合わせた施策を実施していくことが重要です。その上で、ICT導入が業務効率化をおこなう上で有効であると明確に判断できた場合には、その時点で検討を開始するというのが良いでしょう。

実際に効率化を図っていくための手順

では、実際に現場の状況に合わせた施策を実施していくためには、どの様な手順で進めていけば良いのでしょうか。まず初めに実施したいのは管理層のみではなく、現場のメンバーも含めたワーキンググループを組織することです。業務効率化委員になる職員1~2名、現場の中心となる職員を2~3名程度選定すると良いでしょう。ワーキンググループ組織後、まずおこなうべきことは目的・目標を明確にすることです。「経営的な目標」「現場的な目標」の両面から検討し、グループの中で共有することが必要です。

「経営的な目標と現場的な目標」(スターパートナーズ作成)

①経営的な目標と現場的な目標の設定
経営的な視点に加えて現場的な視点で目標設定をすることで、現場のモチベーションにつなげましょう。職員の積極的な協力を得るためのポイントとなります。また、「経営的な目標」の視点も重要です。特に取得したい加算がある場合、どの様な業務や介入が必要となるかを想定します。実際に加算を取得するために必要な時間がどの程度になるかがわかれば、効率化を通じて確保したい時間・業務量が明確になります。それ目標値とすることで、現在の業務状況と比較検討しながら、業務効率化の計画を進めていくことができます。

②全体研修
全体への研修も必要になりますので、ワーキンググループが中心となって企画すると良いでしょう。繰り返しになりますが、業務効率化は現場の状況に合わせて、協力を得ながら進めていく取り組みとなります。業務効率化は効率化そのものが目的ではなく、科学的介護や自立支援の促進等、実現したい目的がその先にあることを職員全体に伝えなければなりません。目的を明確化した上で、ワーキンググループの活動についての協力を要請しましょう。

③現状の正しい把握(オペレーションチェック)
そして、現場の状況の正しい把握を開始します。これについては「職員へのヒアリング調査」「職員の業務表の確認」等を実施することが一般的方法と考えられています。しかし、ヒアリング調査やスケジュール表に基づいた現状確認は主観に左右されやすく、実際の業務の流れを反映していない可能性もあります。特に職員へのヒアリング調査を実施しても「多忙である」「人が足りない」「手のかかるご利用者」などの話になり、正確な状況を把握しかねるケースも多いです。お勧めしたいのは、数日間、実際の職員オペレーションを確認するための取り組みをおこなうことです。1日の全職員の動きをサンプリングすることでオペレーションを全可視化します。職員一人ひとりが共通の様式に実施業務を記入し、それを集計することで、全体の流れを見える化することができるようになります。

④業務改善計画の立案
オペレーションを可視化した後、業務時間の多い業務やオペレーション上の齟齬を検討し、業務改善計画を立てていきます。この時、サービスの提供時間や、サービスにかける時間・意識・職員配置が適正であるかの再確認や、特にマンパワーが必要な時間帯の把握、業務間の相互の影響の検討等をおこないます。この際に、仕組みの導入で時間を短縮できる可能性はないか、本当にこの業務は必要か(“当たり前”になっていないか)、固定の時間で提供しているサービスも前後移動できないかといった、これまで当たり前だったことを見直すという視点も重要になります。場合によっては同業他社の状況も参考になるでしょう。

以上の様に、現場主導で実態を正確に把握しながら、改善すべきポイント等を検討していく事が大切です。次回は、実際にあった事例を解説しながら、具体的な改善計画について解説をさせていただきます。

[ⅰ] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html
[ⅱ] https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei.html

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